中村屋酒店3代目の店主、中村康一さん(38)が、窓の前のシャッターを上げる。木枠だけの窓は畳一畳ほどの大きさ。レジのすぐ後ろにあるので、1人で店番と立ち飲みの応対ができる。「相当飲んでます、これは。だからかな、ささくれ立たないんですよ」。そういって中村さんは少しすり減ったカウンターの板をなでた。

 1人の客がほとんどだ。だから、飲み始めに威勢のいい乾杯はない。グラスに口を寄せて、一口すする。「あぁ〜」。そんな声がもれるだけだ。「『今日も頑張った』と自分で自分に乾杯しているんでしょうね」
 お疲れ?と見える客には甘めのお酒を薦めてみる。「今日の気分に合うお酒を出して」という注文もある。「これ飲んでみて」と、ふるさとの酒を持って来る人もいる。日本酒2杯と三角チーズで800円ほど。
 常連の間で「総長」と呼ばれるマツナガさんがやってきた。「遅いじゃない」。「体の調子が悪くてね。すぐに帰るから」。スーツ姿のロマンスグレー。腰をひねって小銭を取り出した。
 15年以上通っている最古参の一人。「ウィンドウズ」の名付け親だ。「2001,2002・・・・・・と毎年バージョンアップしてきたんだけど、2006はもうないんだよ」


 駅前の再開発でこの店が立つ一角も36階建てのビルに変わる。11月に仮店舗に移り、3年後に新しいビルに入る。その時に、こんな「窓」は造れないだろう、と中村さんは思っている。
 子どものころ、酔っ払いが集まる立ち飲みが嫌だった。デパートに就職した。そのころ、正月に父と飲んだ宮城の酒がうまかった。その父が急死し、15年前に店を継いだ。酒のことは問屋に教わった。周りの酒屋から立ち飲みが消え、常連たちが退職してから客足が減った。地方のうまい地酒をそろえたら客足がもどった。
 いま、窓の向こうにクレーンが見える。駄菓子屋の問屋街があった駅前の一角で工事が始まった。そこは40階建てのビルに生まれ変わる。「窓」は消えるけど、立ち飲みは続けたい。新しい店にも、たっぷりお酒がしみこんだこの板をもっていくつもりだ。


酒屋の壁に開いた窓がカウンター。酒を出す店主の中村康一さん。雨の日も客は路上で飲む=東京都荒川区西日暮里で

夕方5時になると、その窓が開く。東京・日暮里駅前。看板も、のれんもない、窓だけの立ち飲み屋だ。酒屋の傍ら、立ち飲み屋を続けて半世紀になる。常連たちは、「ウィンドウズ2005」と呼ぶ。(堀江浩)

2005/10/29 朝日新聞夕刊掲載




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